第52章 火傷

一夜が明けても、何事もなかったかのように静かだった。

有川紘樹は、結局本当に揉め事を起こしてこなかった。

翌朝。佑奈は有川家の前に立ち、見慣れた扉を見つめた。胸の奥に、言葉にしづらい苦さが滲む。

ここを出たときは、二度と戻らないと思っていた。なのに、こんなにも早く――またここにいる。

佑奈は息をひとつ吸い込み、家の中へ足を踏み入れた。

半月ぶりの有川家は、驚くほど何も変わっていない。

けれどリビングに入った瞬間、佑奈は足を止めた。そこには数人の姿があった。

佐伯薫が絨毯に座り込み、有川菜央と洋ぬいぐるみで遊んでいる。笑みはどこまでも柔らかい。

「菜央、今日買ってきたこのぬいぐ...

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